改めて考えた「生命」と「生活」

 

木下歯科医院 奥 麻衣子

 2020年は健康で生活できることのありがたさを改めて考えさせられた1年だったと思います。
 コロナウイルス感染症拡大の影響を懸念して、歯科健診は6月から10月に延期され、しかも健診当日は園児の皆さんの挨拶も小さな声で始まるという徹底ぶりで、普段元気なみなさんの行動をかなり制限した緊張感溢れる異例の中での開催となりました。しかしむし歯の数は例年と変わらず少なく、保護者の方の健康に対する思いを改めて強くした次第です。
 マスクが季節を問わず日常生活のコモディティーとなってだいぶ経ちますが、マスクをすること(と手洗い)が、外界からの悪影響から身を守るということに有益であることは、十分に実証されたように思います。しかし一方ではやはり息苦しいこと、外からの空気の供給が絶たれるため口腔内の嫌気性菌(空気がある環境下では活動を抑制される菌、つまり空気のない環境下だと活発になる)の活動が活発になることの悪影響の懸念もあります。しかし総じて今回の騒ぎではマスクと手洗いが外敵の侵入に対して圧倒的な効果があったと言えるのではないでしょうか。
 冬は空気が乾燥してインフルエンザが大流行するのが例年の習いです。ところが、今年はマスクと手洗いが功を奏してか感染を抑制できたようです。歯科予防の観点からは、マスクの着用は口腔内の乾燥を防ぎ、潤いを保つという利点はありますが、長時間の使用によって口の中のネバネバ感が増し、嫌気性菌の活動が逆に活発となって繁殖した結果、口臭は強くなります。適切な水分補給と意識的に口を大きくと動かすことは口臭予防には効果的です。また舌を動かすことによって、唾液の分泌は促進されます。キシリトールのガムやタブレットを利用することでさらに効果はあがります。ストレスや自律神経の乱れも口臭の原因となるともいわれているので、自粛中ではありますが時にはマスクを外すこともお勧めします。
 口はただ栄養摂取のためだけにあるのではありません。家庭では親子、兄弟での会話、幼稚園では先生や友達の会話というとても大切な働きをするところです。今回の騒動では後者の方は極力制限され、私たちはこれまでにない非常に不自由な生活を強いられてきました。今思えば、感染が拡大した今年のはじめ頃は、生死の問題で自粛もやむを得なかったかもしれません。しかし最近はどうでしょうか?確かに感染者数、重症者数も増えてはきていますが、私たちの身の回りを眺めて見ると果たしてそんなに危険な状態なのだろうかと疑ってみたくもなりますね。
 国立感染症研究所の発表では今年度の超過死亡者数は現時点でマイナス25,000人だそうです。つまり例年に比べてこれだけ死者が少なかったということなのです。私たちにとって「生命」は亡くすことができない大切なものであることは論を待ちません。かといって人々が集う毎日の「生活」もとても大切です。もうそろそろ「生命」から「生活」へと視点を変えてこの問題に対応すること、つまり医学という「自然科学」だけではなく経済学という「社会科学」の力も動員してこの問題に対処してもいい段階になってきたのではないかと私たちは考えています。皆さんはどう思いますか?

(樫の実幼稚園 園報 令和3年2月8日号 掲載)
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