歯の主成分「HA」を解かす「乳酸」をコントロールする生活習慣

木下歯科医院 院長 木下 亨

 「ハイドロキシアパタイト(HA:塩基性リン酸カルシウム)」と「乳酸」の中和反応がむし歯の原因であり、口の中で唾液から歯石(リン酸カルシウムの正塩)が析出して堆積することが歯周病の原因であるわけですが、同じリン酸カルシウムでも中性(正)塩と塩基性塩とでは、病気へのコミットの仕方が違うのは興味深いことです。日常よくあることも、こうして化学の視点で見直すとおもしろいものです。
 
 食後のブラッシングは、お口の中のミュータンス菌に「プラーク(歯垢)」と「乳酸」を作らせない重要な手段であり、このことをよく理解し習得して生活習慣化できると、長い人生をむし歯と歯周病に罹患せず、歯の喪失を回避でき、入れ歯を必要とする頻度は激減することになるでしょう。
 
 菌の退治といえば、通常抗生物質の使用がファーストチョイスですが、歯科ではそうはせず、長きにわたってブラッシングを勧めてきました。口の中の菌は、口腔内常在菌といって、太古の昔から人間と共存してきた間柄だからです。西洋近代化によって虫歯が大量に発生するようになると、その罪ばかりがクローズアップされてきましたが、常在菌である以上、功の方もおそらく沢山あるのではないかと推察できます。大腸菌は怖い病気を発生させますが、食物から栄養を吸収する過程で、大腸に必要な菌であるのと似ています。外部に浮遊する病原菌が口腔内に入っても、そう簡単に発症しないのは、この常在菌のおかげといえます。
 
 そう考えるとやはりブラッシングに優る方法は現時点ではなさそうです。でも、科学というパラダイムで見直してみると、例えばキシリト-ルはプラークを作り難い甘味料で、むし歯の発生を防げる物質として周知、重用されているようですが、問題が全て解決されたわけではありません。時代がいくら進歩・発展しても、食器や調理用器具を清潔に保つため、使用後はその都度の洗うのが常識で、口腔内の歯や歯肉、舌等も食器や調理器具と考えれば、使用後のブラッシングという物理的な清掃は必要不可欠だということになります。歯石の堆積を防ぐためにもプラークが硬くなる前に歯ブラシで取ればよいので、歯科医師や歯科衛生士からブラッシングの指導を受けることをお勧めします。
 
 また、エナメル質に穴が開く前に、歯科医師に定期的に歯の状態をチェックしてもらうことも大切です。歯が痛みを感ずるのはエナメル質に穴が開き、刺激が歯髄に到達するからで、この状態では遅すぎます。むし歯は治らない(治せない)ことを肝に銘じていただきたいと思います。
 
 虫歯の原因は中和反応で、このことが大前提だとすると、やはり「予防」の意味は歯科では大きいといえます。毎日ご自分で時間をかけて観察することが大切ですが、難しいのが現状でしょう。エナメル質に穴が開く前に、歯科医師、歯科衛生士に定期的に歯の状態をチェックしてもらうことをお勧めします。
 
 歯科検診となると、虫歯を見つけられて治療に通わなくてはならない、時間もお金もかかるということで躊躇してしまうというのが、正直なところかもしれないのですが、老若男女を問わず、3〜4ヶ月に一度は髪を切りに行くでしょう。その時についでに歯科医院に行って口の中を掃除してもらうというのはいかがでしょうか?散髪と同様、さっぱりすることは保証します。社会保障が問題となっている今、国民の総医療費削減にもつながる可能性もありとなればお勧めせずにははいられません。

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